僕として僕は行く。

旧・躁転航路

蟻になって

 昨日の夜中、タバコを吸おうと思って外に出たら、少し雨が降ったのか、車や電灯、壁などぜんぶに水滴がついていて、まるで全てがミニチュアになって朝露に濡れてしまったみたいだった。朝露のついたミニカーの横でタバコを吸う僕は、大きさ的にはさながら蟻みたいなものか。蟻は、哺乳類とか大きな生き物が数秒で行く距離を、その何倍もの時間をかけて行くことになる。湿ったコンクリートの上を、何分も何分もかけて必死に歩く。世界は凹凸と雨露に満ちている。

 僕は毎日朝起きてすぐにタバコを吸うのだけれど、日によっては目覚めてすぐに痰が絡むことがある。その痰を側溝に吐き捨ててタバコを吸っていると、段々と痰のもとに小さな蟻が集まってきた。彼らは、僕の痰の中に含まれていた糖分すらをも自らの糧としようとしている。そこに過剰な意味性とか人生訓みたいなのを引き出すつもりも無いが、それでも、得も言われぬ何かがその朝にはあった。朝露が既に乾いて熱くなったコンクリートを這って彼らが辿り着く先には、僕が吐いた痰があった。