僕として僕は行く。

旧・躁転航路

街場のパノプティコン

 僕の住んでいるマンションには、いま、外壁塗装をやるとかいって、周囲に鉄骨の足場が組まれて、うすいグレーの布で覆われている。必然、マンションの内側からは外が見えるけれど、外側からはこちらが見えないという状態がうまれる。僕は家の中ではたばこが吸えないから、いつもマンションの共用部分でたばこを吸うのだけれど、こんな時間でも、人がちらほら歩いていたりする。

 今日は、深夜徘徊している老人をみた。同じような老人はもう二人ほど近隣にいるけれど、今日の人は、ぼろぼろの自転車で、漕げばかたかたと音を出すようなものに乗っている男性の老人で、どっちを目指すわけでもなく、あっち向いたと思ったらすぐに方向転換してこっちに向かったりしながら、あてどない自由な時間を過ごしているようだった。もうじきすれば、この時間でも空は明るくなるのだろうけど、気温はともかく、太陽のほうはまだ夏じゃないらしく、最後の深夜だった。

 その徘徊している老人をみて僕は思う。あれは僕だ。将来の僕なのだ。いや、今でさえも、彼と大差ないのかもしれない。彼は僕を知らないが、僕は彼を知っている。もしかすると、パノプティコンで囚人を監視していた看守も、あの囚人たちは自分なのだと、思っていたのかもしれない。部屋に戻ると、The StrokesのCall it Fate Call it Karmaが流れていた、6月23日の午前4時だった。

 


The Strokes - Call It Fate Call It Karma (Music Video ...