僕として僕は行く。

旧・躁転航路

ファンタジー

 高校生ぐらいの頃に脳みそがおかしくなってからというものの、金縛りにあいやすい体質になった。最初こそ「ヤバい、これが金縛りか」とか思ってビビったりもしないけれど、今となっては「あーまたか、だるいな」ぐらいにしか思わない。実際金縛り体質の人って大抵がそんなもんだと思う。いちいち呪われているだのこの部屋には幽霊がいるだの言ってると何千回お清めしなければならんくなるかわからんし、そんなことするぐらいだったら科学的認識に原因を求めるのと、さっさと金縛り解除できる方法を確立しているほうが随分と有意義だと思う。

 ちなみに自分の場合は心身のどちらかに、無自覚な内に得たであろう急なストレスがかかっていたり、無理な体勢で寝ていたり、寝るか寝ないかの直前に何かが動いた気がしたりするとほぼ確実に起こる。だから、入眠の際にこれら特定の条件を満たしていると、金縛りが来る以前にしまった、やっちまったと思う。そして案の定金縛りにあう。そうなると、仕方なく体の動かせる部位を探す。まぶたでも、腕でも、足でも、どれかわずかにでも動かせる部位があればそこに意識を集中させて動かす。すると途端に金縛りは解除される。別に体が動かないだけならさっさと解除する必要も無いんだけど、自分の場合は極端に息苦しくなって呼吸がしづらい。呼吸を止めてお腹にかなり力を入れているような感触がする。もしくは、全身が攣っているような苦しみがある。だから、数秒だと耐えられるけど分単位で続くと普通に辛い。ちなみに、体を動かさなくても、外部からの音(車のエンジン音とか)でも覚醒することがある。要は、体であれ脳であれわずかに起きている部位を刺激することが出来ればさっさと解けるのだ。

 こういう感じで、自分にとって金縛りになるのもそれを解除するのも非常に機械的である。金縛りの解除なんてほぼ義務みたいな感じで、まるでこぼしてしまったお茶でも拭くような気持ちでやっている。そこに霊性の一切は無い。まれに幻聴を伴うこともあるけれど、それはおそらくは中途覚醒している脳のマルファンクションであって、あるのはただの身体的反応だけだ。

 おわかりの通り、金縛り体質の僕にとって、それはファンタジーとは真逆のプロセスを辿ることになっている。この事務的なプロセスを、幽霊のせいに出来るのは、本当にたまにしか金縛りにあわないか、もしくはあったことのないために幻想を抱き続けられることに成功している人びとなのだろう。それゆえに、ちょっとそういうのが羨ましいとも思う。ちょうど女性経験の無い男性が女性の体を神秘そのものだと思っているのと同じような構図がある。いわば、実情から離れてイデア化しているのだ。しかしながら、実態としては、ただ、普通に生きているだけですし、当然そこにあるのもただの生理的な反応でしかない。事実は事実でしかなく、そこに何ら物語性は無く、そしてその事実の処理に負われている人間がただ存在するだけのことであって、そんな事実にファンタジーを糊塗し続けられる感性こそを、実は僕は彼らと同様にイデア化して,、憧れ、求めているのかもしれない。