僕として僕は行く。

旧・躁転航路

自分自身の主人であることをやめて

 状況を整理しよう。僕は転職をして時間が出来た。けど遊んでばかりいるわけにはいかなくて、少しずつ出来ることを増やしていかなければならない。そんな中でやりたいことは沢山ある。やらなければならないことも沢山ある。そしてそう遠くない将来僕は家庭を築くことにもなるだろう。そうなればより多くのことをしなければならない。これらにちゃんと優先順位をつけて、やることとやらないことを取捨選択していかなければならない。正直言うと少しウンザリもしてきた。

 すこし短気になったように思う。もしくは短気な自分に気づくようになったのかもしれない。すこし臆病になったように思う。臆病になっただけじゃなくて、それに付随して姑息にもなったように思う。臆病で、いつ怒られるかビクビクするのに疲れている分、怒られない相手の時は存分に手抜きをするようになってしまった。本当に情けないことだ。こういった態度の問題は根深い。油汚れのようにじっくりこびり付いてきた分、なかなか簡単には取れない。自分の人生を取り戻すにもリハビリがいる。 

残虐記 (新潮文庫)

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  桐野夏生残虐記」では、監禁されていた少女が元の家庭に戻っても、もはや元の生活は帰ってこないということに対する苦しみが描かれる。人生だってそんなものかもしれない。1年ぶりに帰ってきた人生を相手にして、正直僕は手をこまぬいている。自由には責任が伴う。日々考えて選択していくことを一度放棄してしまうと、怠惰な喜びの中に浴している「手軽さ」として身に染みこんでしまうのだろう。奴隷の愉悦そのものだ。 

ストレイト・アウタ・コンプトン ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]

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  ティーンのドクター・ドレーはこの映画の冒頭で「俺の主人は俺だけだ」と言って放つ。それをすぐに母親に揶揄されるのだけれど。だけれど、そのシーンは笑いどころではない。揶揄されるような現状があろうと、自分自身の主人であり続けるという意志は、一度放棄してしまうと、簡単には帰ってこないなかで、誰に何を言われようとも、そのアティテュードを抱き続けられたドレー。僕はそんな彼の強さなんてすっかりわかっておらず、ただ抑圧してくる対象から離れればそれですんなり自分の人生が帰ってくるとばかり思っていた。しかし、そうではないのだ。人生を誰かに譲り渡した奴隷には奴隷なりの、居心地の良さがそこにはあったのではないかと思ってしまうほどに、僕は骨抜きにされてしまっていたのだった。莫大な自由を手にして、その責任を持て余しながら、そんなことを考えたりもした、久々のゴールデンウィークだった。